積ん読をやめたい

学習性無力感に抗いたい

新・宇宙戦略概論(初版) 2章を読み終えた

 

 

タイトル通り,新・宇宙戦略概論 の2章を読み終えたので記録する.

試行錯誤しながら体裁を整えているので,昨日の雑記と併せて見ると統一性がない.

歴史は苦手です.

 

  • 計測

かかった時間:3:40

ページ数  :32p(計:73p)

 

  • 雑記

1章の内容まとめ

 

 宇宙政策は4つの階層からなり,1層目には宇宙基本法/宇宙2法*1を基盤とした国家戦略がある.国家安全保障戦略をからめながら,定期的に改正される仕組み.

 

 何故,国家安全保障を絡めているかというと,宇宙政策には国家安全保障の目標が非常に大きくかかわっているからだ.

目標は以下の3つ.

  1. 平和と安全を維持し,必要な抑止力を強化し,わが国に直接脅威が及ぶことを防止する
  2. 日米同盟を強化し,アジア太平洋地域の安全保障環境を改善し,直接的な脅威の発生を予防・削減する
  3. 国際秩序を強化し,紛争の解決に主導的な役割を果たし,平和で安定し反映する国際社会を構築する

こうしてみると,人工衛星やロケットの所持・開発などが大きな影響を与えることがわかる.

 

 上記3つの目標を達成するためには国自体が安定した社会基盤を持つことが必須で,そのための政策が”公共政策”である.

国家戦略遂行においては,「安定した社会基盤」「国民の所得/資産など」「領土・領海」を考慮している.

 

 ただ,国家安全保障上の課題も大きく6つ抱えている.その中でも宇宙・海洋分野においては,「グローバルコモンズに関するリスクへの対処」「情報機能の強化」が挙げられている.

 

 2008年に"宇宙基本法"が制定されてから,提言等を受け修正されながら現在に至っている.現在,日本における宇宙開発・利用は「安全保障」「産業振興」「科学技術」を主体としている.

 

 宇宙政策が抱える課題として,筆者は「予算配分バランスの偏り」「人員減少/民間企業の撤退」などを挙げており,対策として「予算配分の見直し」「開発計画の未確定などを解消する」というのが挙げられている.

 

 国家戦略遂行に向けた重要課題は主に以下7つ.

  1. 宇宙インフラは共有,情報は教養.デュアルユースを推進
  2. 宇宙状況把握(SSA)システムによる宇宙の監視
  3. 海洋状況把握(MDA)システムによる海洋の監視
  4. 基盤ロケット(個体型)としてのイプシロンロケットの推進
  5. 安全性・セキュリティを考慮した新射場の構築
  6. 早期警戒衛機能構築に向けた検討の加速
  7. 宇宙利用による防衛能力の強化

各内容については割愛.

自分なりにまとめた部分も結構あるので,個人メモ程度.

 

前の記事↓ 

nahati.hateblo.jp

 

2章「日本の宇宙開発の歩み」

 2章前書きでは,糸川氏のペンシルロケットを皮切りとした歴史が書かれている.

文章でも読めるが,このあたりは素直にネットでググって年表などを見た方がわかりやすいかと思う.この本の後半にも,付録として年表が記載されている.(京都大学某組織はこういうものを作ってくれている)

 

2-1 日本の宇宙開発の歴史

 この節では,航空機の開発禁止からの,日本の宇宙開発の歴史について触れられている.

  敗戦後,GHQの命令ですべての航空機製造・研究などが禁止された.しかし,朝鮮戦争が起こり命令を解除.さらに同時期に,サンフランシスコ対日平和条約が発効され,日本に航空の主権が返還された.ブランクは7年ほど.

 

 糸川教授の奮闘により,ペンシルロケットやその他固体ロケット,衛星の開発が行われた.また,ペンシルロケット打ち上げの後,科学技術庁が「宇宙開発推進本部」を設立.紆余曲折を経て”科学分野”,”実用利分野”の2つでゼロからの歩みを始めた.

 

 以降,細かな出来事まで記載すると蛇足になりそうなので,年代ごとに概要のみ記載する. 

 1970-80年代 各種衛星の打ち上げ,観測を行い,世界的に評価されたようだ.

 1980-90年代 技術基盤の確立に向けて,メーカーなども含めて打ち上げ・ミッションの成功を続けた.中には失敗もあったがフィードバックとして原因究明と技術力向上に努めたようだ.

 1999-現在まで 宇宙商業化や国際競争力向上へむけて努力している面が大きいようだ.

 

2-2 歴史的なターニングポイントと今後

 この節は”液体ロケット”の開発を中心とした内容から始まる.

 液体ロケットの主な開発研究は「液体エンジン」「ロケットの誘導・姿勢制御技術」の2点を主体としている.いずれも”固体ロケット”開発にはない技術だ.

 この2点は,「LS-Cロケット(1段固体エンジン/2段液体エンジンの2段式ロケット)」の開発や,「JCRロケット(2段式固体ロケット)」の姿勢制御にかかわる大きな技術である.

 

 技術開発を進め,固体ロケットにおいて「ソ連」「米国」「フランス」に次いで,日本は4番目に人工衛星を打ち上げた国になった.一方で,米国の技術力を目の当たりにした日本は1969年に「宇宙開発に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協力に関する交換公文」を発行し,条件付きで協力関係を結ぶ.

 条件としては「非軍事利用」「米国技術の他国への流出の防止」が目立つように感じる.「非軍事利用」について筆者は,米国の日本への警戒姿勢という見方をしているようだ.この「非軍事利用」を考慮していたために,安全保障に用いるという観点が精査されていなかったのは,のちの発展においてかなりの痛手だったようだ.

 

 米国からの技術導入により,日本の衛星打ち上げ等の能力も増した.この間に,国全体の宇宙開発方針が制定されてきたのだが,時がたつにつれ設定事項の偏りが目立ってきた.具体的には「技術開発中心の宇宙開発の性向」が顕在化した.

 また通信衛星大型化を見据えた衛星,ロケットの大型化や,予算を抑えるための米国依存技術の脱却を大いに考慮したものになったようだ.

 

 米国依存技術からの脱却として,ケロシン(灯油)を燃料にするのではなく,「液体水素」を利用したロケットの開発の独自開発が行われることとなった.冠にHとつくものがそれにあたる.

 独自開発では仕方がないように思える”失敗”について,マスコミや一般からは厳しい声があがり,前身となるH-Ⅱロケットの開発は中止された.しかし,後続となるH-ⅡAロケットの開発は行われており,厳しい声に応えるかのようなコストダウンが課題となっているようだ.

 

 相次ぐ失敗や関連組織の廃止,そして研究開発に重点をおいたJAXAの発足により「産業化」から遠ざかっていることを筆者は憂いているように感じる.

 

 そして小項目「官民連携による宇宙事業展開の動きと挫折」を読むと,政府,民間企業など73社が多大の出資をし設立したロケットシステムという会社が,米国企業から衛星30機の打ち上げについて仮契約を受けてから契約解除になるまでに触れられている.

すんでのところで転落に至った過程を思うとかなり切ない.投資の失敗と言ってしまえばそうなのだろうが...

 

 また,日米協力による中型ロケット開発についても触れらており,”宇宙開発の産業化”がいかに困難であるかを垣間見ることができる.

 

 1990年代になると,ようやく国家の体制不備を指摘する声があがった.「技術開発に偏った政策」「国際情勢の変化」「国家戦略としての総合的な宇宙政策の企画立案」など,考慮不足な部分に対する対応が必要になってくる.

 

 「国際宇宙戦略懇話会」の設立,1年の協議を経て,宇宙基本法などに言及した報告書が提出された.

  大まかに書くと,宇宙開発の重要性,宇宙基本法制定の重要性,非軍事利用に固着した開発のデメリット,衛星軍事利用の一般化,などについて言及されている.

 

 協議の甲斐もあり2008年5月に「宇宙基本法」が成立することとなった.節の締めに今後の課題として以下3点が挙げられている.

将来宇宙ヴィジョン創成のための全体像を描くこと

 

人類活躍の場としての,従来の[陸・海・空]に新たに[宇宙・情報/サイバー]空間を加えた5次元の空間の中の1つとして宇宙を認識すること

 

全地球的俯瞰に立ち,少なくとのアジア・環太平洋圏の恒久的な平和維持活動は我が国の責務と認識すること

 

 5次元空間という言葉がいささか引っかかる.陸1つで1次元というわけでもないのでは…と突込みを入れたくなった.(複合的に考えたときに各分野を1次元として換算してくれ,みたいな概念的な意味はわかるのですが…) 浅学で突っ込むのもおこがましいのでメモに残すにとどめます.

 

2-3 日本の主要ロケット打ち上げ実績

 この節には過去のロケット/人工衛星の打ち上げ実績が表として記載されている.打ち上げの成功/失敗が一目でわかるのでとても見やすい.

 

 

雑感

 ここまで読んで,ようやく「何故,本全体が国家安全保障戦略に重点を置いた内容となっているのか」という疑問が晴れてきた.

 過去「科学技術向上」に重点を置きすぎて「産業化の失敗」を経た歴史があるから,ということなのだろう.納得できる部分もある.

 「非軍事利用」が,技術発展の妨げになったのではないかという考察も,詳細を知ると納得できるのかもしれない

 

 1章で触れられていた宇宙政策の要である「安全保障」「産業振興」「科学技術」,予算配分バランスの見直し,というところも,2章を読むと(科学技術に偏っているんだろうな...)と考察できる.少なくともこの本1冊だけ読んでいる感じでは.

 

 私は本当に政治に疎く,あまり政府がどうとかいう話にはアンテナが反応しなかった.なので,この本でそういった内容が多いことに新鮮味を感じる.

各分野の見解を総合的に見るというのは非常に難しく,私は政治家には向いていないなぁという思いになれた.対人関係の摩擦がえげつなさそうだというのは想像に難くない.

 

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nahati.hateblo.jp

 

*1:宇宙2法 宇宙活動法・衛星リモートセンシング法の2つ.ここが分かりやすい