積ん読をやめたい

学習性無力感に抗いたい

新・宇宙戦略概論(初版) 5章を読み終えた

 

タイトル通り,新・宇宙戦略概論 の5章を読み終えたので記録する.

 

航空宇宙技術について学ぶ上で,政治的な内容を知っておくことの重要性を感じる.どういった機関が存在し,どういった実例があるのか,どういった戦略で開発が行われているのか,について重点的に触れられているのでなかなかの良書だと思う.

 

少なくとも,1からネットサーフィンで把握するよりもかなり整った道を通ることができるのではないだろうか.

 

最近よく聞く,国家安全保障関連のニュースも少しは理解できるようになってきました.

  • 計測

かかった時間:4:30(計:17:04)

ページ数  :37p(計:182p)

 

  • 雑記

4章の内容まとめ

 宇宙利用の関わる安全保障戦略について,現状と提案を記載している章.

 節ごとに具体例を分けて記載している.ので,他の章に比べて小項目が多い.

 

 衛星情報活用の大きなネックは「情報の一元化・共有」というところにある.まずは情報の管理体制について.情報収集衛星の管理は内閣衛星情報センターが管理している.収集データ例はJAXAのホームページを見るとわかりやすい.

 取得した情報については,各省庁ごとに利用されている.例えば,気象庁なら気象衛星の情報などを扱っているので想像しやすい.

 

 この”利用データ”の共有については,利用元の管理となっている為に一元管理がされていない,というところが課題として挙げられているようだ.

 

 ただ,収集したデータをすべて共有するというのはリスクが高い.そこで,「公開データ」「秘密データ」というように,公開範囲を制限することが提案されている.

 

 また,日本・米国などがそれぞれ独自に収集しているデータについては,互いに共有することが提案されている.ミサイルやテロ行為などの早期発見を促す目的.

 

 

 軍事通信については,新規のXバンド通信衛星の導入について言及されている.従来使用していたスカパー保有の商用衛星が設計寿命を終える為.

 課題としては,通信衛星のスペック(光通信/量子通信衛星技術の採用),グローバルな活動を行うための法整備などが挙げられている.

 

 この節で挙げられている推進方策が,上記課題をどう解決するのか理解できなかった.結局情報の一元管理・共有を行うことでどのような解決がなされるのかというところが提示されていたら,分かりやすかったかもしれない.

 

 

 宇宙状況把握(SSA)について.まず宇宙状況把握というのは,宇宙空間における衛星軌道上の物体を把握すること,と大まかに覚えた.現状,監視用センサが国内2か所しかない.また,スペック的にもSSAに用いるには不十分である.

 

 解決策として,既存の観測設備の能力向上が提案されている.そのほかに,自衛隊がXバンド防衛通信衛星の監視を行うための設備を配備することが挙げられている.

 

 ほかにもSSAには課題がある.「一元管理する組織」と「SSAセンター機能」の連携.米国との連携.秘密データ,公開データの運用.衛星情報の取り扱いに関する共通の課題である.

 

 SSA特有の課題としては,スペースデブリ増加の防止,除去などが挙げられている.対策として,SSAセンターなどを設立し,宇宙状況把握の強化が提案されている.

 

 

 海洋状況把握(MDA)については,海洋セキュリティ分野について,重点的に書かれている.セキュリティに絞ると,宇宙利用による「不審船/違法船の監視」「EEZ海域の監視」「船舶の常続的な監視」について検討されている.

 

 MDA特有の課題としては,EEZ海域の常続監視のため,係留型飛行船の配置が挙げられている.係留型飛行船という単語になじみがないが,ようはレーダー機能を備えた,無人の停泊飛行船のようなものらしい.(関係ないがこのニュースは笑ってしまった)

 

 また,超小型衛星群の構築なども検討されているらしい.超小型衛星の構築については,日本の得意とするところらしく,構築が容易であると記載されている.ちょっと前の話ですが.きぼうが放出した超小型衛星4機は九州工業大学他が開発したものでしたね.

 

 大規模津波災害についての記載は,世相を考慮したもの感が強かったので言及しない.

 

 後半2節では自律的打ち上げについての課題の記載と提案がされている.

現状,防衛のために日本が独自判断で迎撃ミサイルの打ち上げを行うなどが難しいらしい.これでは,本全体で重点が置かれている「国家安全保障」としての機能が大きく制限されることになってしまうのは確かに自明だと感じた.また,確実に打ち上げが成功しなければならない,国際協力のできる技術力でなければならないなど,課題が多い.

 これについて筆者は,将来的に輸送手段で日本がリーダーシップをとりグローバルに参入していくような方策を提案している.

 

 ほかにも,射場がすくないという物理的な課題を抱えており,周囲に民家や原子力発電所がない射場を検討していくべきだと述べている.

 

 

 総合すると,まずは,安全保障にかかわる各情報の「一元管理」,そして「公開データ/秘密データの公開制限」が大きな課題になっている.というところで〆られている.

 

 自分はこの〆方については少しモヤモヤするものがあって,どちらかというと,国際的に需要のあるポジションにつけていないが為に制約が多いので,短期的には国内で連携をとりましょう,長期的には国際競争に勝てるレベルの技術力を身に着けていきましょう,というゴールのほうがしっくりくる気がした.(個人の所感です)

 

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雑記

5章「安全保障と我が国の電磁サイバー戦略」

5-1 電磁サイバー攻撃の現状

 IoTやAIなどの新技術により,サイバー攻撃による被害がより深刻になってきてる.将来を展望すると,今以上のリスクになることが予測される.そこで,サイバーセキュリティの強化に宇宙利用も活用する必要がある.

 

 現状,技術の急速な発展におけるサイバーセキュリティリスクや,大量破壊兵器拡散の脅威,国際テロやグローバルコモンズ(人類すべてで共有している資源,サイバー空間なども含む)におけるリスクなど,さまざまな課題を抱えている.

 

 米空軍では,以下6つの「宇宙空間からの脅威」を想定している.

  1. 地上システムへの攻撃
  2. 無線(RF)ジャミング Radio Frequency,無線通信に利用できる周波数帯
  3. レーザ攻撃
  4. EMP(電磁パルスのこと)
  5. 衛星攻撃(ASAT)
  6. 情報操作(IO)

 本では,これらについての防衛策,攻撃策それぞれについても極わずかに触れられている.

 

 サイバー空間でのリスクは様々あり,具体例を挙げると以下である.

 「情報システムへのハッキング等(個人情報の不正取得など)」「制御システムへのハッキング等(ECUへの攻撃など)」「無線システムの不正利用(認証のない機器を使用するなど)」ほかに,サプライチェーンでは,出荷までの各工程で不正データの混入リスクなども考慮されているようだ.

 

 こういうのもあるのか,というところで,高高度での核爆発.直接被害をもたらすわけではないが,発生した電磁波を利用して各種インフラを攻撃する.HEMP攻撃というらしい.初めて知った.

 

 その他,軍事施設へのサイバーテロなど.

 

5-2 電磁サイバー攻撃・防御技術

 この節では,国内で起きたAPT攻撃などの事例を紹介している.

 

 サイバー攻撃の種類や,攻撃プロセス,防御について表にまとめらているのでここで言及はしない.

 

5-3 重要社会インフラの脅威

 実際に米国で実例があるインフラへのサイバー攻撃として,意図的電磁波妨害が挙げられている.

 

 電磁波妨害はおおきく2つに分けられる.「放射」「伝導」

 

 また,特性としては「狭帯域」「広帯域」の2つがある.

 

 コンピュータを使用した各帯域の実験も行われている.

 

 その他,対策については現状のセキュリティ対策に準じたものが多数な印象を受けた.

 

 このあたりは,戦略概論で扱うよりもセキュリティ関連の書籍で詳細を追った方が楽しいと思う.(私はこの辺の書籍を有していないので,また積み本が増えそう.)

5-4 軍事インフラの脅威

 「脅威」と銘打ってはいるが,各国の攻撃技術の紹介が主な節.

 米国のサイバー攻撃技術として以下2つが紹介されている.

 「NCCT」複数のセンサネットワークで,標的の特定などを行ったり,攻撃指示をする.

 「Suterシステム」索敵情報の収集を行うブロック1と妨害データを放射するブロック2より構成される攻撃システム

 

 また,電磁サイバー攻撃例が記載されている.ロシアや米国は,すでに実戦にてサイバー攻撃を行っているようだ.すでに実例が多数あることに驚く.

 

 他に,電磁サイバー環境について触れられている.

 磁気嵐が地球に到達し,通信などに影響がでるレベルの太陽フレアが発生した場合,米国では情報を出して注意を促している.日本でも宇宙天気情報センターが,情報を提供している.

 

5-5 新時代の電磁サイバー戦略

 日本では,サイバーセキュリティ基本法というものがある.この法律を元にサイバーセキュリティ戦略を定めているようだ.

 

 目指すべきところは「サイバーセキュリティ立国」の実現だそうで,「情報の自由な流通の確保」「リスク対処」「リスクへの対応強化」「社会的責務を踏まえた行動と共助」ということだ.

 

 全体的にはSWOT分析での強みと弱み把握,対応の強化,などがなされているようだ.対応強化については,具体的に,各法律に乗っ取った,新たな政策の制定や,サイバー関連プロジェクトの基本計画・工程表の作成.(産業界が投資しやすい環境の作成),プロジェクトの優先付け,法律の強化,国の体制強化というところが挙げられている.

 

雑感

 この章はかなり面白かった.実例が多く掲載されており,そのまま書いてしまうと引用ばかりになってしまいそうなので控えた.

 

 全体的に,1章よりも資料がかなり分かりやすく感じる.文章で表現するのはなかなか大変な内容だったと思う.

 

 特に,電磁サイバー関連の説明については,図などがあるとわかりやすいかと思った.ハードの知識などがない人がみたら混乱を招く可能性を考慮し,最低限の言及にとどめているように感じた.

 

 宇宙利用をするにあたって,どのようなサイバー攻撃がされているか,今後どのような攻撃が予想されるか,わが国ではどのような戦略を立てているのかがわかりやすかった.

 

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